1級および2級がめざすもの
生産マイスター検定1級および2級は、製造関連部門の課長・第一線監督者の皆さんを対象としています。製造機能の中で、人を預かり組織を動かして製造の目的であるQC DSを向上させていく方々です。皆さんは、まさに「製造現場の経営者」といっても過言ではないでしょう。製造部門の部下・メンバーを最大限に活かせるのもこの「経営者」次第です。そのため、現場の知識・状態の把握はさることながら、管理面の知識を持ち実践し、課や係やチームをコツコツと高いレベルにリードしていくことが求められています。
そのためには、まず生産に関わる知識レベルが部下より高いこと、そして、関連する部門や業務の知識である品質や生産管理、環境・安全などの幅広い知識を持ちながら、日々の問題解決・課題達成を行っていく必要があります。また、皆さんは管理・監督者である一方で、指導者でもあります。そのような意味からも、知見が部下よりも深く、広く、さらには実践力があることが求められます。製造部門はすばやい実行や問題解決、そして考えること(知恵)が求められますが、そのベースには原理原則や基礎知識が必要であるものと、製造部門のコンサルティングを行っている私は切に思っています。
前述のとおり、皆さんの活躍によって、部下・メンバーの能力が最大限に発揮できるので、皆さん個々人だけではなく、メンバーと会社にも大きく影響します。この意識を持ちながら、よいマネジメントを行っていくことが重要になってきます。そのため、日々の業務レベルを上げる意識も日常化し、目標も高くなってくると思います。そのような意識と意識からくる行動(知識をベースに)により、より強い現場や組織をつくることができるのです。
生産マイスター検定は、現場の経営者である皆さんに必要な原理原則を「役割」、「コスト」、「品質」、「納期」、「安全・環境」にわけて、それぞれ学べるように構成されています。ぜひ、皆さんがこれらを十分理解し主体的に実践していくことで、より強い現場そして組織をつくっていかれることを、検定委員の一人として願っています。
ものづくり人材の最高峰として期待されること
実際に皆さんに最も期待されていることは、つぎのとおり5つあります。これらを管理・監督者が率先垂範で行うことにより、より強い現場と人をつくり、競争力を生むことができると確信しています。ぜひ、皆さんが実行されることを期待しています。
1. ありたい現場・組織のビジョンと方針の設定と達成
皆さんが管理・監督している現場は複数の人間で構成される「組織」となっています。その組織を一つにまとめ、強い組織にしていくためには、管理・監督者が自ら「ありたい現場や組織のビジョン」の設定や、年度や中期計画という単位での方針の設定が欠かせません。その役割を担っているのが管理・監督者です。これらの目標と施策を決めたうえで率先垂範していくことが、部下・メンバーから慕われる存在になり、重要な現場経営者の役割でもあるのです。
2. 日々および月々の目標達成
つぎに、日常業務における目標達成について述べますが、生産業務は日々の目標達成の積み上げで業績を達成できます。目標は日々の生産量の達成に加え、品質(Q)、コスト(C )、デリバリー(D)、安全(S)、環境(E)などがあり、日々達成するための管理を行うことと達成しなかった場合のすばやい打ち手が必要になります。また、月次というレベルでは前述のQC DSEの総括に加え、改善活動や人材育成などの目標達成と施策実践が重要になってきます。
3. 標準の設定と継続的改善
生産において品質のバラツキがなく、安定的にモノをつくっていくためには、「標準」を設定し、「標準」を守ることが欠かせません。この標準を守ることは意外に大変なことです。また、「凡事徹底」という言葉がありますが、この意味は「あたり前のことを誰もが真似をできないぐらい徹底して行う」ということです。地味なことですが、標準にはこの精神が大切です。一方で標準を設定しても、長きにわたり同じ作業や業務を行うだけではいけません。改善も行っていくことが競争力に繋がります。現在の作業・業務の問題を部下・メンバーに抽出させ、改善を進めていくこと(=標準を改訂すること)が重要であり、強い現場にも繋がります。
4. 人材育成
管理者は監督者の管理レベルをあげることや監督者が部下・メンバーを育成していることへのフォローが求められます。監督者は部下の育成、また信頼と協調性があるあたたかいチームづくりが必要です。「現場のレベルは人材のレベル」ですので、人材のレベルを高め現場のQC Dの競争力も高めていくことが大切です。そのためには、意識・知識・知恵の3つの育成が必要です。意識とは役割認識や目標達成マインド、モチベーション・責任感など、知識とは生産マイスターのQC DSなど、知恵とはそれらを活用して考え抜き改善していくことです。
5. 部下・メンバーが働きやすい環境づくり
最後に、働きやすい環境づくりが必要です。部下・メンバーが自律的に動ける人材になることややりがいある業務、そして働きやすい職場にするためには、「仕組み」や「風土」づくり、また、課・部門間の問題や「仕組み」を解決していくことが管理・監督者として求められます。
石田秀夫(いしだひでお)
石田秀夫(いしだひでお)(1級、2級担当)
株式会社日本能率協会コンサルティング(JMAC)
生産エンジニアリング革新センター センター長
シニア・コンサルタント
大手自動車メーカーに入社し、エンジニアとして実務を経験。
株式会社日本能率協会コンサルティングに入社後、生産部門及び開発設計部門のシームレスな収益改善・体質改善活動を主に企業支援を行う。「モノづくり」を広くテーマを捉え、トータル的なマネジメント改革に取組んでいる。また、事業戦略・商品戦略・技術戦略・知財戦略を組合せた「マネできないものづくり戦略」を研究・普及中である。近年は、デジタルファクトリーや、インダストリー4.0 の研究、コンサルティングも行っている。業界としては自動車・自動車部品・電気機器・半導体業界等の製造業を主に活動中である。