HRDA 一般社団法人 人材開発協会

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検定委員からのメッセージ

生産マイスター検定 第11回検定の振り返り
と現場の事例 (各級)

1級の結果を振り返る

今回の1級の結果について振り返ると、「役割」以外の「品質:Q」「コスト:C」「納期・生産管理:D」および「安全・環境:S・E」の得点率が60%を下回ると低い結果となっています。特にC、D、S・Eについて同55%以下となっています。

「納期・生産管理」では、毎回の傾向でもありますが、キャッシュ・コンバーション・サイクルの問題の得点率が低くなっています。

生産マイスター1級の位置づけは製造部門の管理者が対象です。生産マイスター検定 1級・2級のねらいでもご説明しているとおり、管理者は「製造現場の経営者」ですので、原材料/部品受け入れ(=原材料在庫)から、工程を経由して完成出荷、そして、換金されるまでの期間である「キャッシュ・コンバーション・サイクル:CCC」は、ぜひ理解して欲しいと思います。在庫や工程の流動、そして換金するまでのプロセスを経営課題として捉えることが重要です。

工場にある原材料・仕掛品・完成品は「モノ」に見えますが、見方を変えると「換金できていない金券」とも言えます。よって、これらが工場に多くあるということは、その在庫の金額分、会社が資金を調達していることでもあるので、経営的意味合いが大きいのです。第10回の振り返りでも述べましたが、自社工場の1日分の在庫金額を把握すれば、その大きさが解ります。これを理解する上でも、「CCC」の算出方法を学習して頂きたいと思います。

また、「コスト」の得点率も低めです。コストについて得点率が低いのが、「設計と連携したコストマネジメント」に関する部分です。製造業にとって、コストダウンは常時の活動ですが、大きくコストダウンをする場合、設計を変える施策が有効の場合が多いです。例えば、商品性も満たしながら生産しやすい形状などにすることが挙げられます。このように部門を跨がって行う活動は、管理者のリードが不可欠です。そう言う意味でも、部門横断のコストダウンは何を行うべきか、何が自社の課題かを考えて頂きたいと思います。

■現場の活動から

私がコンサルティングを行っているA社とB社について、在庫という切り口で、比較しながらお話しをしたいと思います。

A社は電気製品を扱っている会社ですが、在庫が業界水準より多く、工場を見ても原材料、仕掛品、そして完成品が溢れています。当然、工場でモノを造っているスペースは付加価値面積ですが、モノを置いてある面積は付加価値を生まない面積です。その比率が改善前は40%近くと高く、儲からない工場の典型でした。生産方式は、見込み生産でロットまとめ生産、生産計画のサイクルも1ヶ月単位ということでした。

一方、B社はA社とビジネスの形態が近く、電気製品を造っています。ただしB社では、量産品ですが受注されたものを造るというプル生産を行っています。品種切り替えは多いものの、切り替えも工夫し短時間で行い、正に「必要なモノを必要な時に造る」という形態へ、継続的な改善を行っています。当然、前述の付加価値面積比率も高い(=在庫が少ない)状態です。

これだけではなく、この2社の間のさらなる差として、B社の方が、QCDのオペレーションレベルが高いという点があげられます。これは、在庫があると少々の品質トラブルや設備トラブルでも出荷に影響がないため、改善が進まないということを実際に表している状態です。在庫は直接的に経営にインパクトを与えますが、一方で改善の推進という間接的なインパクトも与えます。これらを参考に今一度、自社の生産のあり方を見直して頂ければと思います。

2級の結果を振り返る

2級の結果を振り返ると、得点率が低いのは「コスト」および「納期・生産管理」となっています。特に「コスト」の中の「設備生産性」については得点率が30%以下と低くなっています。

製造業の場合、生産性は歩留まりなどの「材料生産性」、作業などの「人の生産性」、そして設備や機械のある職場では、「設備生産性」があります。

もちろん、全ての生産性が重要ですが、今回は得点率が低い「設備生産性」について、お話ししたいと思います。設備を持っている会社であればあるほど、「設備生産性」は大切になってきます。ビジネスの側面からみても、設備を多く保有している製造業は、「設備を回してナンボ」という稼働率ビジネスでもあります(需要があることが前提ですが)。よって、設備を止めているロスを分析的に見て、そのロスの要因を突き止め、改善していくことが求められます。「測定無くして管理無し」という言葉が現場であるように、稼働率を把握し、それを分析し改善していくことのPDCAを回していくことが求められます。その意味でも、設備総合効率の算式を理解して頂きたいと思います。

また、「納期・生産管理」では、今回も生産計画や需要予想に関する部分や、在庫の区分や考え方などの部分の得点率が低い傾向にあります。生産現場の実作業以外に、その上位にあたる生産管理や生産計画の情報がどのような考え方で形成されていくかを理解しておく必要があります。生産管理面での改善もきっとあるはずです。そのような意味でも、ぜひ理解度を高めていただきたいと思います。

■現場の活動から

私がコンサルティングを行っているC社の、「設備生産性」についてのエピソードをご紹介したいと思います。

C社は自動車部品を製造している中堅メーカーです。その工場は機械加工を中心とした職場でライン化されており、生産ラインは人と設備が組合せで生産をする職場が中心となっています。そんな中、C社では、生産性を上げる活動がキックオフされて、活動が始まりました。

活動の最初は、工場全体でどこに問題があるか?何を管理しているか?ということを把握及び分析していきます。その活動の中で、C社は人の生産性は管理していましたが、設備生産性で重要な設備総合効率が管理されていないということが明らかになりました。また、さらに分析をすすめると、人の生産性が上がらないのも、設備の稼働率と関連していることが解りました。その中でも大きなロスは、(ローダーの)チョコ停(すぐ復帰できる設備停止)と治工具切り替えの時間の2つがあることか解りました。この「チョコ停」は速度稼働率、「切り替え」は時間稼働率にあたります。これらは設備総合効率の算式の中に位置づけられます。ヒアリングと分析の結果、チョコ停と切り替え時間は長く改善されていないことが解りました。

このように、ロスを区分して管理することが、問題の顕在化に繋がり、各々の改善に結びつくということが解る事例でした。まさに「測定無くして管理無し」ということだと思います。皆様の会社も設備のロスを区分して分析的に捉え、管理しているか、今一度確認して頂きたいと思います。

3級の結果を振り返る

3級の結果を振り返りますと、過去の検定より比較的に良い結果となっています。間違いやすい問題なども、事前に勉強いただいていることが想像できます。その中では、「品質」と「コスト」の得点率が60%程度と低くなっています(品質:61.2%、 コスト:60.7%)。他の単位が70%前後であることと比較しても、「品質」と「コスト」単位の理解をさらに深めていただきたいと思います。

「品質」では、工程能力指数の計算や不良0への手順、新QC7つ道具など、品質改善のための項目に弱さが見られます。リーダーシップを発揮しメンバーを引っ張っていくためには、これらの知識は不可欠なものです。是非、再度テキストを確認いただき、自身のものにして下さい。

「コスト」では、分析手法や管理手法に使われる計算問題が出題されますが、今回も誤答が多く見られます。試験勉強となると、つい計算式は暗記しようとしてしまいますが、それでは、本当の意味で理解したことにはなりません。「なぜそのように計算するのか」の意味を理解するように勉強をしてみましょう。計算式の意味を理解することで、分析手法や管理手法の理解がさらに深まります。

■現場の活動から

改善活動を支援しているA社では、現場リーダーの方々が主導して職場の改善活動を進めていますが、目に付いた問題をテーマに改善しているため、なかなか経営効果につながる改善が進められていませんでした。そこで、改善テーマを決める時に、「その改善が上手く言ったら、どんな経営効果が出るのか」をきちんと議論してから、改善活動に取り組むようにしました。

具体的には、その改善で「今後も現在の生産量が予定されている中で残業が減る」、「今後の計画で生産量が増える予定だが残業は増えない」、「今より人数が少なくても生産ができる」、「この不良がなくなることで競合の製品より競争力が上がり、シェアが増える」などです。

皆さんの改善活動はいかがでしょうか。「チョコ停を減らす」こと、「移動距離を減らす」ことが目的になっていませんか。改善は手段です。目的は経営成果を出すことです。目的を明確にして改善活動を進めることが、本当の意味での改善活動となります。

ベーシック級の結果を振り返る

ベーシック級の結果を振り返りますと、「コスト」の得点率が59.0%と低い傾向が見られます。他の単位は比較的に高得点であり、その中でも「役割」は75.6%とかなり高い得点率になっていました。このことから、現場でのものづくりをきちんと行っていくための役割や、ものづくりの基礎知識は十分理解されていると思われます。

それに対して、利益の確保、製品競争力向上として重要な要件であるコストに関しては、まだまだ学習不足であることが心配されます。

コストに関する計算問題では、「端材ロス・取り代ロス・不良ロスの計算」、「材料使用の歩留まり率の計算」は正答率が高いのですが、例年と同様に「編成ロスの計算」については理解ができていない方が多いようです。編成ロスとは、作業分担の良し悪しを評価するものですので、ライン作業職場だけでなく、複数の作業者が分担して生産している職場には必要な考え方になります。また、「基本機能の作業・補助機能の作業」、「人の作業ロスの4種類」は人系作業職場の改善の基本的な見方、考え方ですし、「設備の停止ロス」は設備系作業職場の基本的な見方、考え方になりますが、今回は正答率が低かったようです。基本的なものですので、是非、もう一度テキストを見返していただけたらと思います。

■現場の活動から

若手研修の講師をさせていただいているB社の話ですが、参加者の方々と話をしてみますと、多くの方が「これまでも色々と研修をしているけど、ほとんど職場のなかでは活かされていない」と言われていました。大変もったいないことです。

そこで私の研修では、「若手でも、明日からできること」をいくつか体感を交えて勉強してもらいました。その一つに、「明日から、きびきび仕事をすること」を学んでもらいました。きびきびのイメージをつかんでもらうために、100mを1分で歩いてもらいました。これは、電車に乗り遅れそうなので少し急ぎ目に歩く感じです。100mを1分で何回か歩いてもらった後に、それと同じくらいの努力度で、3m離れたところに置いてあるペットボトルを取ってきて、ふたを開け、水をコップに注ぎふたを閉め、3m離れたところに戻してもらいました。「これがきびきびした仕事ぶり」として体感してもらい、これだけで生産性は1.3倍くらい上がることを理解してもらえました。「これなら明日からできる」大いに納得してもらえた演習でした。きびきびとは、あわてて作業をやることではありません。自身のできる最高の努力度で仕事をするということです。

皆さんも「明日からできること」がありませんか。


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