HRDA 一般社団法人 人材開発協会

×閉じる
検定委員からのメッセージ

生産マイスター検定 第12回検定の振り返り
と現場の事例 (各級)

1級の結果を振り返る

今回の1級の結果について振り返ると、「役割:R」以外の「品質:Q」「コスト:C」「納期・生産管理:D」および「安全・環境:S・E」の得点率が60%を下回ることや前回検定から得点率が低下する結果となっています。特にD・S・Eについて得点率55%以下となっています。

「納期・生産管理」では、毎回の傾向でもありますが、キャッシュ・コンバーション・サイクル(CCC)について出題した問題の得点率が低くなっています。

生産マイスター1級の位置づけは、製造部門の管理者が対象です。管理者は「製造課の経営者」ですので、原材料/部品受け入れ(=原材料在庫)から、工程を経由して完成出荷、そして、換金されるまでの期間である「キャッシュ・コンバーション・サイクル:CCC」は、ぜひ理解して欲しいと思います。

この「CCC」ですが、理解が進むと2つの側面が見えてきます。
1つ目は、自分の管理下の工場について在庫金額として捉えられ、「工場を操業するにあたり、材料・半製品・製品として、どのくらい運転資金を要しているか?」という経営課題を、資金繰りという側面から認識できることです。おそらく、対象工場の在庫金額を知ると、たいていの場合驚くことになると思われます。

2つ目は、在庫日数という捉え方です。日数で捉えると、日々の生産活動と照らし合わせて考えることができます。例えば、一つの工程や置き場で在庫(仕掛含め)を何日分保有しているのか?ということに繋がり、個々の工程で多いのか?減らせるのか?という議論や改善の着眼となります。
管理者としても、監督者や従業員に対し、具体的に「○○日分減らしたい」と伝えやすくなり、指示を受ける方も理解しやすくなります。これらのことから、「CCC」をぜひ理解して頂きたいと思います。

また、「安全・環境」の得点率も低くなっています。「安全・環境」で得点率が低いのが、「安全管理の効果的進め方」や「資源生産性」に関する部分です。製造業にとって、安全は何よりも優先すべきことであり、そのための知識も十分に理解して頂きたいところです。安全は行動や習慣が大切ですが、知識がないと行動や習慣にもなりません。よって知識面も自社の職場と関連付けながら習得して頂きたいと思います。

■現場の活動から

「在庫」や「CCC」適正化をすすめる上では、管理者・監督者だけでなく、現場での新人や若手社員にも、いかに「在庫低減」や「CCC適正化」を重要なこととして理解してもらうか、ピンときてもらうかということは大変重要です。
今回は、私がこうした場合に、コンサルティングの場でお伝えしているヒントについてご紹介いたします。

製造現場では、自分の工程の前後に在庫(仕掛)があると、後工程への欠品に余裕があるなどの意識から安心する心理が働き、工程間在庫を増やしがちになります。現場では、これを「安心在庫」ということもあります。この在庫量が標準手持ちの在庫量に近ければ良いのですが、外れて多くなると良い運用とは言えません。
このような「安心在庫」を持ちたがる気持ちを、在庫低減(適正化)に繋げてもらうにはどうすべきか?
私の経験から申し上げると、「他人事(たにんごと)」ではなく、「自分事(じぶんごと)」として考えてもらうことが近道かと思います。

その「自分事」として考えていただくために、2つ有効な手があります。

1つは、在庫や停滞している製品(当然、生産している製品)のその時点の原価を理解してもらうことです。製品はモノに見えますが、換金できていない金券であり、意外にその価格も高く、影響も大きいということを理解してもらうことが重要です。

もう1つは、自分の私生活と重ねて合わせて考えてみることです。在庫が多い会社を私生活に例えると、「作業をして働いたことがなかなか換金されない」という状態と同じことになります。
例えば、通常、4月に新入社員として働き始め、その同じ4月に給料をもらえることを正常な在庫レベルの会社とすると、在庫が多い会社は、4月に働いても、その分の給料が5月や6月に遅れてしまうこと(働きがなかなか換金されないこと)と同じ意味合いなのです。こうして私生活の場合に重ねてみると、換金の遅れが、自分の生活資金において大変なことになると容易に想像がつくのではないでしょうか。

「CCC」や「在庫」を適正化する場合、「なぜその活動が必要か」を現場の新人・若手にいたるまで、しっかりと理解してもらう必要があります。その理解の一助としてご紹介させて頂きました。少しでも役立てば幸いです。

2級の結果を振り返る

2級の結果を振り返ると、前回に続き得点率が低いのは、「コスト」および「納期・生産管理」となっています。特に「コスト」の中の「設備生産性」について得点率がさらに低くなっています。

製造業の場合、前回の繰り返しになりますが、生産性は歩留まりなどの「材料生産性」、作業などの「人の生産性」、そして設備や機械のある職場では、「設備生産性」があります。

全ての生産性が重要ですが、「設備生産性」も重要な側面になります。特に多くの設備を保有している会社であればあるほど、「設備生産性」は大切になってきます。

設備生産性の測定として設備総合効率は分析的に捉え、改善する意味でも大切になってきます。時間稼働率は故障停止、段取り切替停止などの改善対象が見え、性能稼働率は基準サイクルタイムとの差やチョコ停などの改善対象が見えてきます。このように層別して状態を指標化し把握することで、次の改善の打ち手が見えてくるのです。よって、設備生産性、なかでも設備総合効率については、その算出方法の意味合いと、自分の働く工場・工程での改善対象と打ち手を結びつけながら、習得していただきたいと思います。
そして何よりも、このような見方で日々管理を行い、素晴らしい工程にして欲しいと思います。特に、設備を多く持っている会社は稼働率ビジネスでもあるので、設備総合効率の算式を理解していただき、日々管理を行いましょう。

また、「納期・生産管理」では、生産量や在庫量を算出するための加重移動平均計算、MRPシステムについて得点率が低い結果となりました。
繰り返しになりますが、生産現場の実作業以外に、その上位にあたる生産管理や生産計画の情報がどのような考え方で形成されていくかを理解しておく必要があります。生産管理面での改善もきっとあるはずです。そのような意味でも、ぜひ理解度を高めていただきたいと思います。

品質においては、全体の得点率は高いものの、QC手法やデータを収集し統計手法を活用しながら解決していくことや管理していくことについて、得点率の低さが見られます。これは日常の活動と重ね合わせると気になる点です。これらの手法は、品質の維持・改善において、言うまでもなく重要な事項であり基礎でもあります。いつも使う道具としてぜひ理解していただきたいところです。

■現場の活動から

私が訪問しているD社における「品質改善」について、事例を基にお伝えしたいと思います。
D社は事務機を生産している会社で、製造現場の人員構成としては、正社員と非正規雇用(有期雇用中心)の方の割合がおよそ半々となっています。
現場は加工・組立作業が中心で、ほぼ量産のライン化がなされています。製造現場においても、正社員と非正規雇用の方は各々役割を持って操業しています。

上記のような雇用形態から、様々な改善活動においても非正規雇用の方の活用を行うことでより高く広い改善活動ができるということで、改善活動を非正規雇用の方にも広げることとしました。
そこで始めたのは、品質問題は当然のことながら、加えて、様々な改善や問題解決にも活用できるQCストーリーや7つ道具の教育です。
正規・非正規を問わず、多くの従業員がこれらの手法を学び、理解することで、「品質問題を定量的に捉え、層別し問題点を絞り込む、そして問題点の要因を探求していく」という考え方を共有することができ、改善テーマと解決件数も大変増えました。今では、非正規の方がリーダーを行う小集団活動も出てきています。

ここで申し上げたいのは、「品質改善に必要なのは、まず知識である」ということです。品質管理手法、QCストーリー、QC7つ道具といった「知識」を学び理解することで、その知識が行動に変わり、成果を生み出します。どうか、現場で働く全ての人に、製造現場の「いろは」であるこれらの事項をしっかり学んでいただきたいと思います。それが、監督者を起点にした品質改善の輪の広がりに繋がることでしょう。ぜひ実践をお願いいたします。

3級の結果を振り返る

3級の結果を振り返りますと、10,11回の検定より少し平均点が下がってしまいました。特に、「品質」と「コスト」がウイークポイントのようです。

まず「品質」に関してですが、仕様や規格に関する生産技術部門や製造部門の果たすべき役割の理解が不足しているように見受けられます。<製品仕様>→<製品規格>→<検査規格>→<製造規格>のつながりと、それらをどう決めてどう守っていくのかを、もう一度おさらいしてみましょう。また、新QC七つ道具についても、なじみが薄いかもしれませんが、それぞれの手法は大変有意義なものですので、その意味と活用方法を再確認しましょう。

「コスト」に関しては、ワークメジャメント関連の理解が不足していたようです。これは、作業者のスキルアップと稼働率の向上がポイントになります。そのための管理方法(総合パフォーマンスの測定、管理指標の算出方法)や、稼働ロスを把握する手法(ワークサンプリング)をもう一度確認してみましょう。現場を改善し、リーダーシップを発揮しながらメンバーを引っ張っていくためには、これらの知識は不可欠なものです。是非、再度テキストを確認いただき、自身のものにして下さい。

■現場の活動から

先日、ある会社で優秀リーダー賞を受賞した方とお話しする機会がありました。
その方に、「担当職場を活き活きさせるためのポイントは何ですか?」と聞いてみますと、「やる気」、「やる腕」、「活躍の場」をつくる具体的な行動が重要である、と答えられました。その中でも特に「活躍の場」を強く意識しているということでした。
メンバーが活き活きするには、「やり遂げた達成感」が重要と考え、達成感が得られる場面や機会をどうすればつくれるか、寝てもさめても考えておられたようです。そうした場はメンバーの「活躍の場」であるから、必ず達成させるような支援を一生懸命やり、なんとか成功の喜びを感じてもらうことが特に重要とのことでした。

「うちのメンバーは、受身でやる気がない」、「活動が活性化しない」という声をよく耳にしますが、「活躍する場」つまり、達成感や存在感を感じられるような場と、そのための育成、かかわりができているでしょうか。お話を伺ったこのリーダーも、当初は日々忙しい中、大変だったと言われていましたが、今ではメンバーが自ら進んでやるべき事、改善推進を進めてくれるようになったとのことでした。皆さんの職場はいかがですか。

ベーシック級の結果を振り返る

ベーシック級の結果を振り返りますと、「品質」の正答率が52.5%と低い結果となりました。他の単位が前回より正答率が向上している中で、「品質」のみ下がってしまいました。

内容を見てみますと、「品質コスト体系」や「品質の維持管理」、「5M(人、設備、材料、作業方法、測定)の日常管理」、「品質責任の明確化と作業者が不良をつくらないための条件」、「不良低減の手順」、「ヒストグラムとパレート図」について誤解等が多い結果になっています。どこが弱いというより、全般的に理解不足ということが懸念されます。

「品質」は、お客様が皆さんの製品を購入するか判断する時の最重要項目になります。したがって、生産現場では、安全とともにまず強化しなければならない項目になります。守るべき品質の基準となる品質規格や標準を十分理解し、日ごろの業務と関連づけて、学んだことを活かしていくことが重要です。あわせて、品質改善を進めていく上で非常に役立つ「QC7つ道具」の意味と活用方法も理解いただき、現場での品質改善に活用いただきたいと思います。現場に活かすことを意識しながら改めて学習することで、理解レベルが向上できると思います。

またその他の単位では、「コスト」の計算問題が例年通り弱かったようです。計算式を覚えるというより、その計算で何を明確にしているのか、それは何を意味しているのかを理解いただくことが重要と考えます。是非、もう一度テキストを見返していただけたらと思います。

■現場の活動から

最近コンサルティングをしているA社では、現場メンバー自らの活動で、「ものづくりの力を向上しよう」という活動をしています。
特に力を入れているのが、「全員がその職場のナンバー1レベルになろう」という活動です。もちろん改善活動も進めていますが、むしろナンバー1を目指す活動のほうが大きな効果が出ています。

ナンバー1といっても、いろいろなナンバー1があります。作業の正確性ナンバー1、段取り切替えナンバー1、設備故障予知のナンバー1、などいろいろな仕事のナンバー1の人を皆で決めて、その人が「なぜ他の人よりうまく仕事ができるのか」を皆で解明し、標準化し、それを練習して全員がナンバー1を目指しています。

この活動を推進していったところ、

  • ・ナンバー1の知見を学ぶことで、ナンバー1の方自身にも光がすごく当たるようになった
  • ・自分にはまだまだできない、と思っていたことができるようになり、皆の達成感が大きく向上して仕事が楽しくなった

このような話があちらこちらから出てきて、職場がずいぶん明るくなりました。どうでしょうか、皆さんもすぐにでもできる活動ではないでしょうか。


お問い合わせ先
「生産マイスター検定 お問い合わせ窓口」
(TEL 03-6362-4370 営業時間 9:00~17:00 土・日・祝日は除く)