HRDA 一般社団法人 人材開発協会

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検定委員からのメッセージ

生産マイスター検定 第13回検定の振り返り
と現場の事例 (各級)

1級の結果を振り返る

今回の検定では、「品質」に関する問題の得点率が大きく落ち込んだこと(74.4%→61.0%、マイナス13.4ポイント)や、また「安全・環境」に関する問題の得点率が低いことが起因し、前回に比べて合格率が下がりました

さらにブレイクダウンして見てみると、前述にもあるように「品質」に関する設問では「工程能力図の分析」「品質リスクマネジメント構築の留意点」、「コスト」に関する設問では「売上差異分析の計算」「最適生産計画の計算」、「納期・生産管理」に関する設問では「キャッシュコンバージョンサイクル計算」「計画管理と進度計画」、「安全・環境」に関する設問では「安全文化」「資源生産性」などが得点率の低いジャンルとなっています。

なお、中でも「安全・環境」の得点率は著しく低くなっています。特に安全に関しては職場の基本であることから、日常の安全遵守行動の徹底に加え、知識面も高めていくこと、その知識を部下に正しく伝えることが必要不可欠です。これを機会に、今一度テキストを熟読し理解度を高め、職場の安全を徹底・推進していただきたいと思います。

また、毎回得点率が低いのが、生産管理分野のキャッシュコンバージョンサイクル計算です。毎回申し上げていますが、1級の学習内容は管理職に必要なものであり、対象者は製造課(管理対象)の経営者とその候補者という位置づけです。経営者という視座からも、キャッシュコンバーションサイクルはぜひ理解してください。

自社・自職場の在庫がどのくらい経営にインパクトがあるのか、一日分の在庫はいくらなのか?そうしたことを把握すると、決して小さくはない数値であることがわかります。簡便的には計算式の1日あたり売上原価に相当しますが、現場で起こっている事象と管理指標を関連づけて考えていくことが、管理者の大きな役割の一つです。

■現場の活動から

私がコンサルティングに入っているF社では、サプライチェーンの大改革を行い、当然工場も改革の対象となりました。そこで経営視点から問題となったことは、納期の問題に加え、「リードタイムが長い」「在庫金額が多い」というものでした。

競合他社は売上のサイズが異なっていましたが、キャッシュコンバーションサイクルに指標化し比較すると、F社のほうが32日も長いことがわかりました。これは、売上原価から換算すると約36億円のキャッシュとなります。もっと簡単に言えば、競合より36億円多い在庫を保有して操業しており、経営観点で言えば、運転資金が必要となり、資産効率を下げていることになるのです。

会社で36億円キャッシュがあったら、もしくは浮いたら何ができるでしょうか?
運転資金を借りなくても済みますし、現在の低金利を背景に、明るい将来の投資にも活用できるはずです。

上記のとおり、キャッシュコンバーションサイクルを考える意義はとても大きいのです。管理職として、これを基にして、在庫削減・リードタイム短縮の施策を打っていくことはとても重要なので、繰り返し学習し、ぜひとも習得していただければと思います。

2級の結果を振り返る

2級の結果を振り返ると、前回(第12回)に比べて14.0ポイントも合格率が下がっています。この要因としては、「コスト」に関する設問の低得点率、特に計算問題が大きく影響しているようです。

「コスト」について掘り下げていくと、「消費量差異の計算」「編成ロスの計算と対策」「管理・監督者責任ロス工数の計算」「設備総合効率の計算」などの計算問題の得点率が下がっています。

「コスト」はご存知のとおり数値で扱われることが多く、それがゆえに、実務でも計算することが多くあります。まずは現場の活動を「コスト」という数値で定量的かつ分析的に捉えることが大切で、次に、その分析を基に対策を打っていくことが重要です。

計算問題の間違いが多いということは、計算の意味合い、すなわち目的の理解とその構造がよく理解できていないということだと思われます。検定試験の出題形式から鑑みても、計算ミスというよりは、こうした意味合いや構造などの理解ができていないということでしょう。

例として、設備総合効率という指標について考えてみましょう。これは、設備がどのくらい効率的に、ロスなく稼働しているかを見るための指標です。

算出するための計算式は、「設備総合効率=時間稼働率×性能稼働率×良品率」(通信教育第2単位テキスト p.109~110)です。これは、設備がある以上、管理が必要な数値であり、テキストp.110にも記載されている、ロスの構造を階段図で把握しておく必要があります。

生産設備を保有している製造業は、いわば稼働率ビジネスなのです。俗にいうと「回してナンボ」(需要があれば)ということからも、設備稼働率の把握と改善は非常に大切ですので、再度テキストを確認し、理解しておきましょう。

■現場の活動から

前述した「設備総合効率」について、私がコンサルティングに入っている会社でのエピソードをお話ししたいと思います。

G社は機械加工を中心とした製造業です。ある一つの工場だけでも、ライン化されているものも含め、300台の加工設備を保有し操業しています。この工場は、近年の顧客の多様化により、製品種類が多く、工程では段取り切り替えが多い職場となっています。この段取りは時間稼働率に表されることが通常ですが、切り分けて管理されていませんでした。

これらを切り分けて見ることにより、問題を顕在化し、段取り改善をテーマ化して改善推進(外段取り化や段取りワンタッチ化、条件一発だし化等)することで、時間稼働率の向上をはかり、工場の収益を上げていきました。また、現在では、性能稼働率の部分である「チョコ停」を次の問題として、改善を進めています。

このように、設備総合効率を重点指標とし、さらに時間稼働率・性能稼働率・良品率と切り分け、優先順位をつけて改善推進を行うことが重要です。

これらの実務的観点からも、「コスト」に関わる数値化と計算及び構造の理解と把握を進めていきましょう。

3級の結果を振り返る

今回の3級は、前回(第12回)に比べて合格率が下がってしまいました。
中でも「役割」に関する問題の得点率が大きく下がってしまったことが気になります。通信教育の、主に第一単位のテキストで学ぶ「役割」は、リーダーとしての大切な考え方や心構え、メンバーとのコミュニケーションなど、チームとして現場のレベルを上げていくためにとても重要です。チームメンバーと一緒に、現場のレベルアップをうまく進めるために、もう一度テキストを読み返しましょう。

また、計算問題関連については今回も良い成績とは言えませんでした。

「品質」に関する設問では「工程能力の計算」、「コスト」に関する設問では「製造原価構造の計算」「編成効率の計算」「ワークサンプリングの計算」「設備生産性の構造の計算」、「納期・生産管理」に関する設問では「正味所要量と発注手配量の計算」などが出題されましたが、やはり、多くの方が苦手とされているようです。

これらは、毎日の生産活動で使われる計算ではないので、皆さんの理解がしにくい内容かもしれません。しかし、今より少しでも高いレベルの現場を目指すために必要な内容なので、まず計算式の意味を理解するようにしましょう。暗記することも大事ですが、計算式の意味を理解すれば、なぜこのことを学ぶ必要があるのかも理解でき、自身の仕事にひき寄せて考えることができるようになります。

現場を改善し、リーダーシップを発揮しながらメンバーを引っ張っていくためには、これらの知識は不可欠なものです。是非、再度テキストを確認いただき、自身のものにしてください。

■現場の活動から

皆さんは、QCDという言葉を良く知っていますね。これは工場でよく使われる用語ですが、なぜ工場で「QCDの改善」「QCDの向上」と言っているのか考えたことはありますか?

ここで、皆さんが日頃街で買い物をするときのことを思い出してください。
例えば、今度の日曜日に友達とランニングをするので、スポーツシューズを買いに行くとしましょう。

お店に着いたらまず気に入ったデザイン、そして履きやすそうなシューズを探しますね。店内を見たところ、好みのデザインで履きやすそうなものが見つかりました!次はどうしますか?

多くの人は値段を見るでしょう。ランニング用のスポーツシューズですから予算は1万円以内というところでしょうか。さて、値段を見たら7,800円でした。「よし、予算内だ!」。あなたはこれを買おうとします。そして店員さんに「このシューズが欲しいのですが、26cmの在庫はありますか?」と声をかけました。しかし「あ~、すみません、ちょっと在庫切れで、来週の水曜に入ってきます」と店員さんが答えました。

皆さんはこんなときどうしますか?日曜日に使いたくて買いに来たので、当然「それじゃいいです、他の店にいってみます」ということになるでしょう。

さて、振り返ってみると、皆さんはこのお店で一足のスポーツシューズを買うと決めるまでに、こんなことを検討しているのです。

「この店に気に入ったデザインがあるか?」なければ、この店では買いません。
「値段は予算内か?」もちろん、予算オーバーだったら買いませんね。
「在庫はあるか?」今欲しいのですから、在庫がなければやはりこの店では買いません。

「気に入ったものがあり」「値段が予算内で」「ほしい時に手に入る」―この3つがそろってはじめて購入となり、1つでも欠ければ購入しないことになるわけです。

この「気に入ったもの」を「Q:品質」、「予算内の値段」を「C:コスト」、「ほしい時に手に入る」を「D:納期」と工場ではよんでいます。つまりQCDは、お客様が皆さんの造った製品を、買うか買わないかを決める重要なポイントであると言えるのです。

いかがですか。QCDについてより身近に捉えることができたでしょうか。このことを踏まえて、もう一度職場のメンバーとQCDのレベルアップについて考えてみてください。

ベーシック級の結果を振り返る

残念ながら、前回(第12回)よりも低い合格率となりました。
その中で「品質」に関する問題の正答率は少し上がりましたが、それでも「コスト」とともに、全体と比較すると低い状況にあります。

毎回いえることですが、やはり多くの皆さんにとって、計算問題が苦手分野のようです。「品質」に関する設問では「品質コスト体系の計算」、「コスト」に関する設問では「編成ロスの計算」「設備の総合効率の計算」などが不得意のようです。

「品質」は、お客様が皆さんの製品を購入するか判断する時の最重要項目になります。計算問題はもちろんですが、そのほかの内容も、もう一度よくテキストを確認していただき、日々の生産で十分に意識していただけたらと思います。

「コスト」では、特に現場でのロスを見つける方法として、色々な分析やそのための計算が必要になってきます。ロスの少ない良い現場を作っていくために、こちらも再度テキストを勉強しましょう。

また勉強する際には、それらの内容を、どのように現場に活かすべきかを意識しながら、改めて学習することで、理解レベルがさらに向上できると思います。

■現場の活動から

私がコンサルティングをしている会社では、改善案を検討する際に「3人寄れば、文殊の知恵」ということわざの話をよくします。ご存知の方も多いと思いますが、その意味は、2人で考えるよりみんなで考えた方がいい知恵が出る、というものです。これは、現場で改善を考える時にも同じことが言えます。ちなみに文殊とは、知恵をつかさどる菩薩のことだそうです。

さて、それではなぜ1人より皆で考えた方が、いい改善案が出るのでしょうか。

ここに、改善案を検討するときのポイントがあるのです。今まで思いも付かなかったような案をいきなり出そうと思っても、なかなか出るものではありません。いい案の多くは、他の人が出した案をヒントに、さらなる案を思いつくことから始まります。

その案をヒントにさらなる案→その案をヒントにさらなる案→・・・というようにいい案が育っていくのです。複数のメンバーで考えると、このさらなる案が1人より出やすくなるので、「3人寄れば、文殊の知恵」となるわけです。

ここで大変重要なことが2つあります。

1つは、できるだけ「突拍子もない案を歓迎する」ということです。最初のきっかけ案も、それをヒントにしたさらなる案も、突拍子もない方が「今まで思いも付かなかった案」を生み出す可能性が高まります。

そしてもう1つの重要なことですが、色々な案出しの段階では「絶対に評価や否定をしてはいけない」ということです。改善案を検討しているときに、突拍子もない案を出すというのは、大変勇気がいりますよね。せっかく勇気を振り絞って出した案を、まわりのメンバーから「それは無理でしょ~」とか、「それはお金がかかりすぎるよね」などと否定的に評価されたらどうでしょうか。自分も、まわりのメンバーも二度と突拍子もないことは発言しなくなってしまいますね。

実はこれこそが、いい案が出なくなる最大の要因なのです。ついつい言ってしまいがちな否定的な言葉を絶対に出さないことが、いい案を生み出すことにつながります。

皆さんの現場で改善案を検討するときに、「この時間は絶対に否定的な発言をしない」というルールを決めて、むしろ「それはおもしろいね~」、「それは思いつかなかったよ」と言ってみましょう。きっと今までに無い面白い案がたくさん出てくるかと思います。ぜひ実践してみることをお薦めします。


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